2004年(平成16年)9月15日(水曜日) 
日本経済新聞(夕刊) 社会面

拝啓 こんな日々です 第15話
愛妻日記@
円満ゆえに3度目の離婚

 東京のシステムエンジニア、池畑浩三郎さん(42)には三度の離婚暦がある。いわゆる「バツサン」のひとり暮らし。でも週の大半は茨城県に住む”妻”のもとで過ごす。
 恋多き男ではない。結婚、離婚の相手はすべて同じ女性。俳優のリチャード・バートンとエリザベス・テーラーのように愛憎の末、離合を繰り返した夫婦ではない。パートナーの仕事を支えるために選んだ、愛のかたちなのだ。

 池畑さんは1988年、大学の後輩と結婚。キャンパスの教会で挙式した。当時、東大大学院へ進学していた妻は、生物学研究者の道を歩み始めていた。が、結婚による改姓には予想外の障害があった。
 旧姓を通称とすることも検討したが、奨学金や補助金の受領は戸籍名が原則。一方、学術論文の検索システムは姓がキーワード。改姓すると別人の業績と思われてしまう。
 妻が博士号を発表済みの論文と同じ旧姓で取得するため、92年に二人はやむをえず離婚。「心理的な抵抗感はあったけど自然な選択だった」と池畑さん。学位を得るとすぐさま再婚した。仲人は、いぶかしげな表情を浮かべたが・・・・・・。

 しかし、妻が政府の研究機関に就職すると同じ問題に直面。今度は池畑さんが妻の籍に入り、「池畑姓」を通称として使うことを会社に打診したが、色よい返事はもらえなかった。2度目の離婚を決意した。

 96年に法制審議会が選択的夫婦別姓案を答申したとき、二人を取り巻く状況は変わるかにみえた。しかし、民法改正案は国会に提出されないまま。98年に長男を授かると、非嫡出子になるのを避けるため、3度目の結婚。その後、同様の理由で籍を抜いた。
 現在、妻は茨城県内の独立行政法人に在籍し、同県で長男と二人暮し。池畑さんは可能な限り、妻子のもとへと通う。長男は池畑姓、子育てのための親権は妻が持つ「変則家族」だ。周囲からは奇異の目を向けられることもある。が、「政治、文学、音楽。どんなテーマでも彼女は話していて一番楽しい人。ずっと仕事を続けてほしい」と意に介さない。
 夫婦別姓には「家族の一体感を損ねる」という反対論もある。妻子を愛する池畑さんには、理解できない議論だ。